かわいらしい店です。のれん、振り子時計、壁紙、皿、酒器など、大きいものからちょっとしたものまで、かわいらしい。子供の頃に、すきなものをこっそり集めた宝箱をの中を見ているような、いつくしみに溢れている店です。
店主は、三木菜々子さん。25歳のときにOLを辞して、前々からの希望だった自分の店をひらいて今年で4年目。吉祥寺の繁華街からは、やや離れている場所で、ぽつり、ぽつりとやってくる客の一人一人と丁寧に対話するように、店を切り盛りしてきた。
「私の店はお酒も料理も専門店じゃないので、お客さんにはすきなものを食べて飲んで楽しかったって、ふつうに思ってもらえたらうれしいです」
てづくりの、ミートローフ、ポテトサラダ、塩昆布ピーマン、紅生姜を混ぜ込んだじゃこがけ厚揚げ焼きなど、飾り気がないやさしい味のつまみが揃い、燗でおいしい酒もいくつかある。
燗をつけるときは、温度計は使わない。開店当初は、温度計を使っていたというが、温度計が壊れてからは使わなくなってしまって、と菜々子さん。
「うちで置いているのは、ちょっとやそっと温度が上がりすぎても美味しい、優秀なお酒ばかりだと気がついて、温度計に頼らなくなりました。それに、燗ができたときって、離れているところからでも、米が蒸れたような、いい匂いがしてくるんです」
忙しく料理をつくる手を動かしながら、ときどき、燗つけ場に目をやり鼻をきかせ、いい頃合で島根の酒「玉櫻」を出してくれた。ぬくぬくできるやさしい口当たりで、やさしい味のつまみと合わせると、何も考えずくつろげる。
地つづきのようになだらかに味わえる、ふだんのつまみと燗酒が気持ちいい。
FUJI STORE
2014年7月に開店。疲れた仕事帰りにふらりと立ち寄りたくなる、あたたかく静かな雰囲気の店。店主がてづくりするつまみに合わせたい燗酒は、独楽蔵、いづみ橋、天穏、扶桑鶴など。冷酒は伯楽星を揃える。日本酒の他は、ビールにレモンサワー、ワインもあり。
2020年2月をもって閉店されました。
東京都武蔵野市吉祥寺東町1-6-16 0422-27-5785
平日16時〜23時、土13時〜21時 不定休

写真 村田 圭
http://keimurata.format.com
取材・文/山内聖子 呑みますライター・SSI認定唎き酒師
〝夜ごはんは米の酒〟が
『蔵を継ぐ』(双葉社)
筆者と同世代の造り手5人の酒蔵を継ぐまでの軌跡を記したノンフィクション。親の大きな負の遺産を抱えながら奮闘し、今日の日本酒人気を生み出した、知られざる彼らの熱き想いと素顔に迫る。
掲載蔵元:冩樂、廣戸川、白隠正宗、十六代九郎右衛門、仙禽
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