やさしい気持ちになる燗酒をつける店
なぜ人は酒を飲むのか、いつの日かとある居酒屋でそう聞かれたときに、私の口からすぐに出た言葉は、「やさしくなりたいから」だった。
仕事や人間関係の付き合いでよくないことがあった日でも、酒を飲めばイライラした気持ちが鎮まり、つり上がった目尻は下がって気持ちが和む。おいしさというのは前提にあっても、私が酒を飲みたくなるのは、和らぎを求めているからなのかもしれない。
とくに燗酒は、ホッとして気持ちが“やさしくなる度”が高いのではないか。ハレナリであたためてもらった酒を飲んで、ため息をもらしながらつらつらと考えていたら、店主の吉元大智さんがこう言った。
「燗酒の魅力ってやさしいところだと思うんです。ゆったりできて肩の力を抜くことができるお酒なんですよね。やさしい燗酒が好きなんです」
納得する。その言葉をもっている店主がつける燗酒は、ふわりとやわらかく、とてもおだやかだった。いつまでもつかっていたいぬるめの温泉みたいに、じわじわと酔っていくのが気持ちよかった。
ハレナリ(harenari)
吉祥寺で開店して7年目の店。ワインやサワーなど他の酒類も豊富なので、燗酒を飲む前酒もいろいろと楽しみたい。つまみは旬の野菜や魚、肉を使ったシンプルで、あらゆる酒に合う料理が中心。「店に居るのが一番楽しい」という店主のもとに通い詰める常連客が多いが、はじめて行った客でも馴染めるあたたかい雰囲気がある。
東京都武蔵野市吉祥寺本町2-8-10 080-5096-8070
17時半〜23時半(フードLO)店主が帰りたくなったら閉店。火休

写真 村田 圭
http://keimurata.format.com
取材・文/山内聖子 呑みますライター・SSI認定唎き酒師
〝夜ごはんは米の酒〟が
『蔵を継ぐ』(双葉社)
筆者と同世代の造り手5人の酒蔵を継ぐまでの軌跡を記したノンフィクション。親の大きな負の遺産を抱えながら奮闘し、今日の日本酒人気を生み出した、知られざる彼らの熱き想いと素顔に迫る。
掲載蔵元:冩樂、廣戸川、白隠正宗、十六代九郎右衛門、仙禽
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