柔和な女将がつける凛としてやさしい燗酒
やわらかい笑顔で出迎えてくれる女将の雨宮明日香さんは、燗つけ場の前に立つとキリリとした表情になった。湯をはった二つの燗どうこの前で、徳利を真剣なまなざしで見つめている。ときたま、手に取った盃に酒をそそぎ、ちびちび味見をしながら燗酒の温度を探り、しばらくするともう一つの燗どうこに徳利を静かに入れた。
「燗をつけるときは、二種類の温度の湯につけます。一つが 70 度でもう一つが90 度。酒の質によって、ゆっくり温度をあげて最後は高い湯につけて仕上げるときもありますし、温度を一気に上げる時もあります。
パスタのアルデンテのように、味わいの中心に芯ができるような燗酒を目指しているんです」
つけてもらった「酔右衛門」の純米酒は、やわらかい口当たりなのに、ピシッとした酸味が輪郭をつくっている。店主の雨宮謙二さんがつくる、純米酒だけを使ってじっくり豚肉を煮込む「純米酒リヨン」と合わせると、脂と溶け合
って互いの味わいがふくらみ、酒の酸味が全体を引き締めてくれる。
やさしいだけではない、凛とした強さが、女将のつける燗酒から伝わってきた。
おいしいです、と伝えるとうれしそうに笑う明日香さんは、もともと吉祥寺の燗酒の人気店「にほん酒や」の燗番として修行した経験がある。毎日、おびただしい数の燗酒をつけて腕を磨いた。
「店をやるにあたり、誰よりも燗をつけて学んだ経験が生きています。数値だけで判断するのではなく、燗酒はつけた回数がものを言う世界だと思っていて。これからも、とにかくつけ続けてさらに感覚を磨いていきたいです」
ひねもす
三鷹駅から近い線路沿いにある、昨年の 10 月にオープンしたばかりの燗酒店。 50 種類以上ある銘柄の中から、燗番女将の雨宮明日香さんがつまみに合わせて、 程よい温度でおいしい燗酒をつけてくれる。出汁や日本酒をたっぷり使った燗 酒が進む料理を、店主の雨宮謙二さんが作っている。
東京都武蔵野市中町 1-21-10 奥野ビル 1F
0422-27-8444 平日 18 時〜23 時(LO)、土日祝 17 時〜22 時(LO)不定休
17時〜24時(23時半LO)日休

写真 村田 圭
http://keimurata.format.com
取材・文/山内聖子 呑みますライター・SSI認定唎き酒師
〝夜ごはんは米の酒〟が
『蔵を継ぐ』(双葉社)
筆者と同世代の造り手5人の酒蔵を継ぐまでの軌跡を記したノンフィクション。親の大きな負の遺産を抱えながら奮闘し、今日の日本酒人気を生み出した、知られざる彼らの熱き想いと素顔に迫る。
掲載蔵元:冩樂、廣戸川、白隠正宗、十六代九郎右衛門、仙禽
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