熱燗の魅力
温度いろいろ、美味しさいろいろ。 ほっと一息、ホットなお酒。ちょっとひと手間。 燗酒でほっこりひととき。
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燗酒に合う日本酒

燗でおいしい酒をつくる酒蔵を訪ねて

 

 一瞬、身ぶるいをした。顔をなでる空気がひんやりと冷たい。足元にも、そろりと寒さがしのびよってくる。

そんな、冬の足音が少しずつ聞こえてくる10月下旬の晩。訪れたのは島根の邑智郡にある酒蔵。緑が濃い山々に囲まれた「玉櫻酒造」の門をくぐった。

 挨拶もそこそこに、五代目で杜氏の櫻尾尚平さんと弟の圭司さんに案内され、酒の販売所をぬけて古めかしい格子戸をあけると、客間に併設された台所では、母親の玲子さんが夜ごはんの支度をはじめていた。食卓には、現社長で父親の定さんや兄弟の奥様、子供たちも集まって、酒蔵はにぎやかな空気につつまれる。

テーブルに並べられたのは、刺身、のど黒の煮つけ、地元でつくられた藁灰こんにゃく、根菜や豆類の煮物、野菜の天ぷら、炊き込みご飯のおにぎりなどなど。家庭のあったかい匂いがする心づくしの料理を目の前に、うれしくなり、のっけからお腹が鳴った。

「うちの酒はこういう家庭料理によく合うんですよ」

尚平さんがつぶやくと、圭司さんは“かんすけ”を物置部屋から運びだし、玉櫻の純米酒をちろりで燗をつけてくれる。

料理に箸をのばしながら待つことしばし。はやる気持ちをおさえながら、徳利から湯気たつ酒をそそいでもらい、ひとくち、すする。

米の甘みがじんと染みわたって、お腹の底から安心のため息がでた。ふわりとやわらかい。でも、ただやわらかいだけじゃない。まるで縁の下の力持ちのような、控えめでも凛とした品格も感じる。強くてやさしい安定の味。心おきなく身をゆだねたくなる、なごめる酒である。

料理がかさなれば、この酒はよりいっそうおいしさを増した。

根菜の煮物にも野菜の天ぷらにもどんな料理にも溶けこんで、しみじみとした満足感をもたらす。

「なんか食べたくなるような酒だったらいいなって。あまり深く考えずに、好きなもんに合わせて飲んで、気持ちよくなる酒が一番です」

ぽつりぽつりと話す尚平さんの言葉に耳をかたむけながら、もう一杯、もう一杯とおかわりをねだってついに。盃ではもの足りなくて、大きい猪口になみなみとついでもらったくらい、手が止まらなくなった。冷酒や常温ではなく、燗酒だからこその心地よい世界。おいしさがゆっくり続いて会話もはずみ、体が芯からあたたまる。

「玉櫻は家族の酒ですけん」

玲子さんがうれしそうに話すと、定さんがにっこり笑う。「玉櫻」の酒を囲みながら、自然と誰もかれもが笑顔でいっぱいになった。

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左)五代目で杜氏の尚平さん 中央)母親の玲子さん
左)五代目で杜氏の尚平さん 中央)母親の玲子さん

 

玉櫻しか造れない味を目指す

 創業は明治25年。代々続いて現在、社長が4代目の櫻尾定さん、5代目にあたり杜氏をつとめるのが櫻尾尚平さんだ。最盛期は未納税の酒(大手メーカ−にタンクごと売る)も含めて約4000石を造っていたが、現在は約400石。

 地元の契約農家が育てる佐香錦や五百万石などの酒米を使った、純米酒が約8割を占めている。だが、尚平さんが平成16年に蔵へ帰ってきたときは、その真逆で普通酒が8割以上。製造石数も下がり続けているときだった。

「僕が蔵を継ぐために帰ってきたときは、250石をきっていましたし、その後も200石まで下がり続けました。このままじゃだめだなと。普通酒も含めて自分がおいしいと思う酒を造らなければ、とそればっかり考えていました」

 当時、リーダーである但馬杜氏の下で酒造りを学びながら、“造りたい酒”を少しずつ明確にしていく。

「そもそも僕が日本酒っておいしいなと興味をもったのは、大学時代の恩師がすすめてくれた酒がきっかけです。今では信じられないですけど、それがアルコール添加した香り系の酒でした。でもいろいろと経験をつんでいくうちに、造りも味も変えたいところがたくさん出てきて。自然と純米酒に気持ちが集約されていきました」

 さらに、江戸時代に確立された伝統的製法、生酛造りにも挑戦する。

「但馬杜氏さんはやり方を知らなかったので、教科書を読みながら手さぐりだったんですけど。僕は少しの温度変化や環境で劣化するような弱い酒ではなく、強い酒を造りたかったので、自然の微生物で発酵させるたくましい生酛造りは特にやってみたかったんです」

 とりわけ、燗でおいしい酒を造りたいと思ったという。理由はとてもシンプルだ。尚平さんはおおらかに笑いなが言う。

「燗酒を飲んでいる人たちのほうが、楽しそうに見えたんですよ」

 決して冷酒タイプの日本酒を否定しているのではない。だが、酒をそのままではなく手間をかけて温めたり、差しつ差されつしながら飲む燗酒の世界観に魅了された。

「酒だけをどうのこのう言いながら飲むのって窮屈じゃないですか。そうじゃなくて、僕の造る酒はただ楽しく飲んでほしい。燗酒でおいしい酒ならば、飲む人を幸せにできるんじゃないかと思いました」

 平成21年からは杜氏となり、いよいよ本格的に造りたい酒に向かって始動する。平成20年から兄の後を追うように蔵入りした、弟の圭司さんも心強い右腕となる。それだけではない。兄弟の奮闘ぶりを温かく見守り、ともに酒造りを担う両親の存在も大きい。前杜氏とは正反対の酒造りに対しても、「思いがあってやっているから、とことん応援したい」と両親の兄弟に対する眼ざしはやさしい。「玉櫻」とは、家族みんなで造っている酒なのだ。

「玉櫻は家族の酒ですけん」という玲子さんの言葉が改めて胸にじんわり響く。

「今は技術が発達して、どの酵母を使うとか水をいかに加工するか、のようなレシピ的な酒造りが多いし、上手に造れば売れるのかもしれない。でも、僕にとってはそんな酒に魅力はないし、おもしろくないじゃないですか。そうじゃなくて、飲んだときに蔵の雰囲気や匂い、僕たちの姿勢みたいなのを感じてもらえる酒じゃないと。玉櫻は飲んでいて清々しい酒だったらいいなって」

 そして、尚平さんは繰り返し、言葉にする。

「なんも考えずに飲み手を楽しく、気持ちよくさせる酒が造りたい。うん、やっぱり、うちの酒は燗にして飲んでほしいですね」

 

取材・文/山内聖子 呑みますライター・SSI認定唎き酒師

〝夜ごはんは米の酒〟がモットーで、日本酒とは10年以上の付き合い。全国の酒蔵を巡りながら、dancyu(プレジデント社)、DiscoverJapan(エイ出版社)、散歩の達人(交通新聞社)や男性週刊誌など、数々の媒体で日本酒にまつわることを独自の切り口で執筆中。連載に「酒とツマミ究極の出会いを探して」(週刊大衆ヴィーナス・双葉社)、「NEO日本酒論」(散歩の達人・交通新聞社)。著書に、同世代の蔵元が蔵を継ぐまでの物語を取り上げたノンフィクション『蔵を継ぐ』(双葉社)がある。    

『蔵を継ぐ』(双葉社)

筆者と同世代の造り手5人の酒蔵を継ぐまでの軌跡を記したノンフィクション。親の大きな負の遺産を抱えながら奮闘し、今日の日本酒人気を生み出した、知られざる彼らの熱き想いと素顔に迫る。

※本サイトに掲載されている写真および文章の無断転用を固く禁じます

 

玉櫻とはこんなお酒です

玉櫻は、島根県邑智郡邑南町にある玉櫻酒造有限会社で作られているお酒です。

創業明治25年の小さな蔵ですが、杜氏の兄を弟が支え、兄弟を中心に家族全員で力を合わせて酒造りを行っています。

杜氏の櫻尾尚平氏は、ただ漫然と酒造りをおこなっているわけではありません。

伝統的な酒造り方法のきもと造りを復活させるなど、しっかりと自分なりの価値観や信念を持った上で、酒造りに励んでいます。

杜氏の価値観や信念が反映された玉櫻は、一般的なお酒とはやはり違います。

スーパーなどで売られている一般的なお酒というのは、活性炭濾過をして仕上げられています。しかしながら、活性炭を使用するとせっかくの味が削がれ、無色透明となってしまいます。お酒が本来持っている特徴や魅力が失われてしまうのです。

その点、玉櫻の純米酒は、活性炭を一切使用していません。そのため、お酒が本来持っている特徴や魅力をそのまま活かされています。ほのかな麹の香りや発酵食品独特の風味を楽しんでいただければと思います。

本来の特徴や魅力をそのままにしっかりと熟成された玉櫻の純米酒には、さまざまな味わいが含まれています。そのままでももちろんいいのですが、温めてやることでこの味わいが一層際立ちます。

温めることによって料理との相性の幅もぐっと広がります。是非、お気に入りの徳利と平杯を用意して、ゆったりとお楽しみ下さい。

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動画で学ぶ、お燗。

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